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詩集。
母を老人ホームに入れた
認知症の老人たちの中で
静かに座って私を見つめる母が
涙の向こう側にぼんやり見えた
私が帰ろうとすると
何もわかるはずもない母が
私の手をぎゅっとつかんだ
そしてどこまでもどこまでも
私の後を付いてきた
私がホームから帰ってしまうと
私が出ていった重い扉の前に
母はぴったりとくっついて
ずっとその扉を見つめているんだと聞いた
それでも
母を老人ホームに入れたまま
私は帰る
母にとっては重い重い扉を
私はひょいと開けて
また今日も帰る
書店で見つけた詩集の中から一つをご紹介いたしました。
施設に勤める者として、切なく感じる一方でご家族の想いにも共感できる詩です。
実際に家族になる事はできなくても、近い存在になる事ができますように。
称揚苑4階 職員