想いを知る

慶生会で活躍している職員のご紹介

サポートするのは生活能力ではなく暮らし

ライフサポート生野 入職3年目 40代男性

 この特殊寝台(介護用ベッド)を選定する度に、私はあるご夫妻の事を思い出す。

 10年前私が福祉用具専門相談員の資格を取得し駆け出しの営業マンだった頃、脳梗塞で入院されていた田中トオル様(仮名)75歳の退院前カンファレンスに参加した。後遺症の麻痺が残ったがリハビリの成果もあり、ご自宅の環境が整い次第退院出来るという内容であった。

 早速次の日に担当ケアマネジャーと同行訪問しご自宅の環境を拝見させて頂くと、古い日本家屋でトイレまでの距離も遠く奥様の話では、布団を敷いて寝起きされていたとの事だった。
退院後、安全に生活して頂く為に私が選定したのは、リモコン操作で高さや枕元を電動で調整できる特殊寝台と安全に排泄できる移動可能なポータブルトイレ(簡易トイレ)であった。
 現在のご本人様の身体状況を考慮し、配置に関しては特殊寝台から降りて安全に排泄が出来るように、 ベッドサイドにポータブルトイレを配置する事となった。

 安全な環境整備が整ったところで具体的な退院日が決定し、その3日前に特殊寝台及びポータブルトイレを納品、計画通りに配置を行った。

 退院直後にケアマネジャーと再度同行訪問した私は、目の前の光景に驚き思わずケアマネジャーと顔を見合わせた。なんと以前納品した際に配置したポータブルトイレはベッドサイドに無く、代わりに折り畳みベッドが特殊寝台にくっついて配置されていた。ポータブルトイレは特殊寝台から離れた場所に配置されており 私が提案した安全な生活空間とは程遠いものであった。
 慌てて本人様に尋ねると顔をしかめ言いにくいそうにされており、代わりに申し訳なさそうに話される奥様の口から出た言葉に私は大きな衝撃を受けた。
「ゴメンな兄ちゃん、入院するまで布団並べて仲良く2人で寝てたもんやさかい、退院してからも同じようにするのが普通やと思って・・・お父ちゃんも寂しそうにしてたから夜中に息子が使っていたベッドを持ってきてん。アカンかったかな?」奥様一人で重い折り畳みベッドとポータブルトイレを息を切らしながら動かしたとの事を聞いて、いたたまれない気持ちになった。
 その後私がとった行動は、特殊寝台をセミダブルサイズに変更し、お二人で仲良く寝て頂き、ベッドサイドにポータブルトイレを配置する事で、「お二人の気持ち」と「安全面」を両立させる事だった。

 5年後お一人になってしまった奥様も介護保険のお世話になる事となり、現在もその特殊寝台を使用されている。ケアマネジャーから「もう一人になったんだから特殊寝台も普通サイズに変更した方が動きやすいし、レンタル料金も安くなるのでどうですか?」と尋ねたら、「このままがいい、このベッドはおとうちゃんとの思い出や」と言われたとの事。

 私は、このご夫婦と出会った事で、ただ身体状況だけ見て選定する福祉用具専門相談員ではなく、人の気持ちを重視して選定を行う福祉用具専門相談員となれた事を嬉しく思う。